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『いつかの空、君との魔法』感想

 角川スニーカー文庫、藤宮カズキさんの『いつかの空、君との魔法』の感想です。ネタバレはありませんのでご購入の参考にどうぞ。

この色彩を映像で

 読んでいるときに、『ああ、これは映像で見てみたい』とか思うときがあります。映像作品やコミックと違って、小説はただとにかく文章で勝負しなければならないわけで、そういう意味では不利な部分があるなぁと。無論そういう不利な要素をどれだけ跳ね除けられるかが作家さんの腕の見せ所であり、それを乗り越えたときに、きっと読み手に『映像で見たい』と思わせるのではないかと思います。

 『いつかの空、君との魔法』は色彩の物語。そう感じました。世界を覆うダスト層雲によって空をさえぎられ、灰色を落とし込む街。その雲を払うために飛ぶカリムたち魔法使い『ヘクセ』が魅せる精霊の極彩色。ぶつかり、すれ違うカリムと揺月の心。そこかしこにある色合いが、時にやさしく、時に鮮烈に描かれています。だからこそこの作品は『映像で見てみたい』と思ったのでしょう。特に雲を払うために行われるグラオベーゼンは、ぜひとも動く姿を目にしたい。欲をいうなら長編映画で。

 カリムは作中において『三流ヘクセ』と呼ばれています。卓越した飛行技術と魔法を有しながらある過去のせいで高く飛び上がることができず、それゆえにダスト層雲を払うことができない。一方の揺月は同様の経験、いやむしろカリム以上に危険な経験をし、命にもかかわる病を患っていながらも、当代随一のヘクセとして知られています。各々の立場から同じ経験を経て、同じ道でありながら違う方向に進んだ二人の間には、居心地の悪い微妙な距離感が生じてしまいます。

 もっとも、カリムが主視点であるので比較的早々にカリムの心中、『揺月に惹かれている』ということは明言されているのですが。それでもカリムにはこの距離感を埋めることができない。それはカリムにとっては仕方がなく、読者にとっては非常にもどかしいものでした。

 一方の揺月。彼女の心中が始めて明確に描かれるのは中盤になってから。彼女がグラオベーゼンを行うまでお預けです。それまでの揺月の描写といえばカリムからの視点のものがほとんどなので、彼女が何を考え、何を思っているのかはカリム同様に読者には隠されています。

 その揺月のグラオベーゼンが終わってから少しして、事件が起きます。この事件が二人の関係にも影響を与えるのですが……これ以降は控えておきましょう。

葛藤と苦悩と願望と

 とにもかくにもこの二人の心。幼いがゆえに純粋なそれぞれの思いが、過去と絡み合ってなかなか解けない呪いのようにも感じられる。それは世界を覆い隠すダスト層雲にも似て重く、その向こうにあるはずの空の色はなかなか見えてこない。

 カリムの思いと葛藤。揺月が抱える苦悩と願望。それらが行き着く先――誰も知らない空は果たしてどんな色なのか。それは実際に読んで、確かめていただきたい。

2016年9月8日:筒狸

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