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『インスタント・ビジョン』感想

 角川スニーカー文庫、永菜葉一さんの『インスタント・ビジョン 3分間の未来視宣告』の感想です。ネタバレはありませんのでご購入の参考にどうぞ。

未来を視たとして

 未来を知ることができたら、なんてのは誰しも思うこととは思います。創作においても『バック・トゥ・ザ・フューチャー』などの例を挙げるまでもなくタイムトラベルものや予知夢を題材にしたものなど昔から多く存在します。

 あ、ちなみにBTTFは2と3はビデオテープが擦り切れるほど繰り返し見ました。

 近未来、感染した人間が二〇二九年十二月三十一日の最後の三分間を見る夢現譜症候群(ディー・スコア・シンドローム)が発見された世界。感染した者、特に若者の中から異能に目覚める者が現れる……異能バトルものとしては、『病気が原因で異能を発現』という、そこまで真新しいものではありませんが、視えた未来に影響を受けた能力を得られるという点はなるほどと思いました。疑問に思ったこともありますがそれは後述。

 主人公のレオ・エンフィールドもその一人で、彼が視た未来は……長剣を振るい、ロンドンで大虐殺を犯す自分。同様に未来を視た人間の中には、彼に殺される場面を視た者や、その様子が報道されるのを視た者もおり、彼は『時計塔の殺人鬼(ヴィクトリア・キラー)』とまで呼ばれてしまいます。本人はヒーローに憧れているというのになんともまあ……

 感染から三年後、Xデーが一年後に迫る現在、夢現譜症候群の特務捜査官を勤めるレオがチームを組むことになったティア・ファーニバル。彼女の目的はレオを殺すこと。といっても、作中で語られていますが通常の意味で殺してしまうと色々と問題があるわけでして。まあそのあたりは実際に読んでいただくといたしましょう。

卵が先か親鶏が先か

 先述のとおり、各々が目覚める能力は視た未来によって影響を受けます。レオが手に入れたのは……長剣。他にもありますがそちらは割愛します。で、ここでひとつの疑問。長剣といえばレオが未来で視た自分が使っていた得物ですが、果たしてそれは、そのときにそれを使っていたからその能力となったのか、それとも能力を得たからその得物を使っていたのか。卵か鶏かみたいな話ですが、このあたりももしかすると物語の根幹にかかわって来るのかもしれません。

 では総評。緩急がリズムよく、読み出してしまえば一気に読んでしまえます。レオも未来に絶望するだけでなく、それを回避しようと手を尽くしているし、そのために自主練も行っている(自主練については直接描かれることはほぼありませんが)。ときには自分が殺人鬼になる未来すら利用して状況に立ち向かう姿は痛ましさもあります。得た能力は若干、いやかなりチート気味ではあるけれど万能ではないし、作中でも相当追い詰められている。それでもと立ち上がる姿は単純なチート能力系の作品とは一線を画します(正直に言いますが、私、チート能力だけでどうこうする作品は大嫌いです。ある作品読みましたけどやはり駄目でした)。

 他にもレオに対して好意的に触れる数少ない人物、リサ・キーティングや、今回はカメオ的登場だけでしたがレオと過去、あるいは未来に何かしらあるのであろうジュリア・ウォーカー、悪党に徹するラビット・トゥインクルスターなど登場人物たちがそれぞれしっかりとそこに存在する点もよかった。シリーズの一巻目として先が楽しみです。来る十二月三十一日に世界はどうなるのか、そして、

 レオが抱える闇は果たしてどの未来を選ぶのか。

2016年11月10日:筒狸

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