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『湯屋の怪異とカラクリ奇譚』感想

メディアワークス文庫、会川いちさんの『湯屋の怪異とカラクリ奇譚』の感想です。ネタバレはありませんのでご購入の参考にどうぞ。

話の焦点はどこだ

 カラクリ技師に憧れて都にやって来た佐吉。ひょんなことから評判の湯屋の奉公人となることとなった彼は、そこの住人であり妖でもある一夜、三夜、闇二、そして子供の落書きのような姿をした件たちに囲まれて、忙しくも真新しい日々をすごすことになります。そうしているうち、彼は一人のカラクリ技師と出会い……とまあ、裏表紙のあらすじを少しばかり抜粋する限り、佐吉の成長の物語のようにも見えます。

 が。実際のところ果たしてそうだったのでしょうか。いや、確かに作中で佐吉は一定の変化を見せますが、それは私の印象としては成長とは少し違い、むしろ考え方の変化とでも言うべきものでした。詳しいことは書きませんが、ある種投げやりだった思考が前向きなものに切り替わったような、そんな感じです。それは成長といってもいいのかもしれませんが、少なくとも私にはそう飲み込めませんでした。

 では佐吉と、つまりは人間とより多く触れ合うようになった一夜たち妖の心の変化を描いたものであるかというとそれもまた違います。こちらは明記させていただきますが、むしろ彼らは終始そのままで、彼によって何かしらの思考の変化が起こることはほぼありません。それは彼ら三人だけにとどまらず、他の妖(作中では位によって呼び方が変わりますが、ここではまとめて妖とさせていただきます)たちも同様。精々、ああ、この人間はこういう男なのかと佐吉を見る目を変化させる程度です。

 ならば佐吉が出会うこととなったカラクリ技師の話か……正直、これが一番近い。確かに話の中心にいるのは基本的には佐吉ですし、ある意味で非常に重要な役回りを担っています。が、裏表紙にある『佐吉の運命の新たな扉を開く』と書くほど大げさなことが起きたわけではなく、誤解を招くことを承知で言いますと、むしろ体のいい駒として利用された結果行き着いた、佐吉を含むほぼ全員にとって最良の選択だっただけ、そんな風に感じました。

淡白も良し悪し

 淡白な文章は良いほうにも悪いほうにも取れます。今回の場合、若干それが悪いほうに作用していると私は取りました。三人称だからと言ってしまうとそれまでですが、どうにも淡白すぎるのです。こればかりは本当、読んだ方それぞれで印象が変わってくるでしょうから断言しづらいところではありますが、どうにも『間』が弱い。さくっさくっと話が進むけど、カタルシスを呼び込むようなぐっと踏ん張る場面が足りないと思いましたし、舞台の空気が切り替わったというこちらへの伝え方が直接的過ぎる。ここはもう少し溜めてみたほうがいいんじゃないか? などと素人ながら勝手に思ったりしていました。

 まあ何はともあれ、読みやすかったのは確かですし話の運びは面白かったと思います。ただし、冒頭述べたとおり何がどう面白かったと明言するには私の感性ではまるで足りない。ネタバレしてしまえば楽ではあるのですが……

2016年9月4日:筒狸

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