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『三輪ケイトの秘密の暗号表』感想

メディアワークス文庫、真坂マサルさんの『三輪ケイトの秘密の暗号表』の感想です。ネタバレはありませんのでご購入の参考にどうぞ。

『水木しげ子さん』もおすすめ

 本作は真坂さんのデビュー作ではなく、デビューは二年ほど前に電撃文庫から刊行された『水木しげ子さんと結ばれました』。先述の記事のとおり初物に手を出すことの多い私ですから、もちろんそちらにも手を出しています。後にも先にも一回きりの電撃大賞二十回記念特別賞ということもあって買った次第です。

 なお、真坂さんは上記作をシリーズとして三作出された後、メディアワークス文庫に移り『アンダーワールドストリートへようこそ』という作品を書かれています。残念ながらそちらは未読。

 さてさて本作ですが、極度の人見知りでありつつ、暗号を前にすると瞳を輝かせる暗号中毒者こと三輪ケイト、そして彼女の幼馴染であり本作の語り部である真銅達己が出くわす(出くわされるとも言うけども)暗号にまつわる謎を解明していくミステリ仕立ての物語となっております。で、このケイトですが、達己と自身の母親である早苗以外の人物とまともに会話を交わすシーンはありません。さらに言うとその二人との会話自体もそう長いものはないわけで。

 私も多少なりとも人見知りの気はありますから言えますが、実際そうです。仕事とかでもない限り見ず知らずの人といきなり会話なんてハードルが高すぎる。私の場合ですと「機嫌が悪い」とか、もっと単純に「怖い」という印象を与えることが多々あります。この際ですから断言しておきますが、ハードルを越えられずに手前で右往左往しているだけであって、気分を害しているわけでも敵愾心を抱いているわけでもありません。本当に単純な話、対人技能が低すぎるだけです。無論、ある程度の期間交流があれば普通に会話する程度にはなりますが。

 しかしながらケイトの場合、人見知りというよりももはや対人恐怖症に近い部類のように感じました。初対面の相手の前では必ずといっていいほど達己の背中に隠れ、そうできない場合は硬直して顔も上げられない。流石にここまで来ると単純に人見知りでは済まされないレベルかと。

 もっとも、その辺りに対して現段階では最終判断は下せませんが。おそらくは彼女の過去にもかかわってくることでしょうし、本作ではその点にはほとんど触れられていません。ぜひとも続刊をお願いしたい。

 また、“極度の人見知り”であるからこそ、達己との信頼関係が一層強く見える部分もあります。というか、まあ、ありていに言って「お前ら末永く爆発しろ」。とはいえ二人は付き合っているわけではなく、現状は幼馴染の間柄に治まってはいるのですが。ただし達己のほうは恋愛感情をある程度自覚しており、それがまた、二人の距離感もあいまってなんとも甘酸っぱい。若いなぁ。

気楽なミステリとして

 ミステリの方面から見てみますと、タイトルにあるようにすべての事件は暗号がその解決のヒントとなっています。ただ事件といっても所謂日常ミステリ物に該当しますので構える必要はなく、あとがきで先生ご自身がおっしゃられているとおり、解読しながら気楽に読むことができます。ただし、一部の暗号にはある分野の知識が必要となりますので、そういう意味においてはそう気楽には行かないかもしれませんが。

  • 2016年8月8日:筒狸

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