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『白翼のポラリス』感想

 講談社ラノベ文庫、阿部藍樹さんの『白翼のポラリス』の感想です。ネタバレはありませんのでご購入の参考にどうぞ。

黒いラグーン的なな何かとは違います

 陸地のほとんどを失い、いくつかの巨大な船に築いた国家で人々が生活する世界・ノア。そんな世界で、船国を行き来し荷物を運ぶスワローを生業とするシエルと、彼が休暇で訪れた無人島に漂着した少女ステラ。彼女を助けたシエルは、彼女の依頼でステラを船国バトーまで運ぶことになるのだが……

 この世界の船とは現実の船とは異なり、海流に乗ることでしか移動できません。当然国家間の交流もそう簡単ではなく、それゆえにシエル達スワローには様々な理由で様々な荷物が預けられます。そして、金さえ払われるのであれば依頼人の素性にも荷物の中身にも触れないのがスワローの慣例。なんだかこう書くとどこぞの港湾都市に拠点を置く某商会のようにも思えますが、流石にあそこまで殺伐としてはいませんでした。まあそりゃそうだ。

 とにもかくにも、そんな仕事に「空を飛ぶ理由」のために就いたシエルは、それ以外に生きる意味を見出せません。他者に踏み込もうとせず、『白翼』の異名で名を馳せた父の息子たらんと仮面で素顔を覆い隠す。そのことについてシエル自身も息苦しさを覚えているようで、無人島での休暇もその息抜き、といった具合です。

 一方のステラは、所謂世間知らずのお嬢様といった具合で、それゆえか真っ直ぐな心の持ち主。彼女についてはここで書くよりも実際に読んでもらったほうがいいと思いますので割愛しますが、そんなステラや他の人々との交流、そして彼が巻き込まれる巨大な陰謀が、シエルの心にも変化を与えます。

美しい言葉運び

 また、言葉選びの丁寧さ、美しさも目を惹きます。「空の鳴き声」や「青の欠片」など、空の様子を表するには個人的には珍しく感じる表現でしたが、世界観に違和感なく溶け込んでいて見事。話の展開自体は王道ではありましたが、日常の静と空戦の動がしっかりとしており、飽きさせない。ごちそうさまでした。

 最後にひとつだけ。こちらを読む際に現実の船の知識などを持ち込むのはご法度ですと断言しておきます。なぜかって、それは読めば分かります、きっと。というか、そんな無粋な真似してあーだこーだいう人間はお呼びでない。

2017年4月6日:筒狸

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