無銘図書館

『オリンポスの郵便ポスト』感想

 電撃文庫、藻野多摩夫さんの『オリンポスの郵便ポスト』の感想です。ネタバレはありませんのでご購入の参考にどうぞ。

テラフォーミングといえば?

 火星のテラフォーミングといえば個人的には真っ先に『ARIA』を思い出しますが、こちらもテラフォーミングが行われた火星でのお話。災害と内戦によって分断された都市を結ぶ長距離郵便配達員であるエリスが、都市伝説として伝わるオリンポス山山頂にある郵便ポストにある”届け物”を行う百九日間の物語です。

 テラフォーミングが行われた、といっても、先述のARIAのように充分な水と大気、そして緑が広がっているわけではなく、おおよその風景は現在の我々が知る火星のそれ。それでも人が住めるようになるまでには様々な犠牲を伴い――エリスが引き受けた”届け物”も、そんな犠牲のうちに含まれるであろう、第一次開拓民であり、身体を機械に挿げ替えたクロという人物。オリンポス山に向かう理由を問うエリスに、彼は「死に場所を探している」と答えます。

殺伐としそうで

 ここまでだとなにやら殺伐とした空気を感じないでもないですが、中身はさほどそういった印象はありません。クロが昔のこと、火星に来た経緯や内戦の際に従軍したときのことなどを話す際も淡々としていて、まあ完全には割り切れていないのかもしれないが自分の中ではもう折り合いをつけているといった雰囲気。エリスはエリスで色々と抱えていたりしますがそちらも似たり寄ったりで、性格はずいぶん違えど似た者同士かな、と感じます。

 旅の道中で明かされていくエリスやクロの過去と思い。いずれまた死に絶えるとされる火星の姿。そして都市伝説の真実。生きるという意味。エリスとクロの絆が深まるにつれてそれらが記されていく様子は、読んでいて心地いいと感じるとともに、その先の結末に辿り着きたくないという思いもまた浮かび。それでも読み終わったときには、幾分かの寂寞もありつつ澄んだ心持ちでした。

2017年3月12日:筒狸

『電撃文庫』関連記事