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『クロバンス戦記 ブラッディ・ビスカラ』感想

電撃文庫、高村透さんの『クロバンス戦記 ブラッディ・ビスカラ』の感想です。ネタバレはありませんのでご購入の参考にどうぞ。

歴史書的な作品

 一段落読み終わって思ったことといえば、これは果たして物語なのだろうかと。いや、物語には違いないのですが、なんというか、『小説的な物語』ではなく、『歴史書の一部的な物語』だなという意味において、そういう風に思った次第です。のちの歴史家に英雄と謳われる少年・ビスカラの足跡をたどるかのような。そして実際、これはそういう物語なのでしょう。

 複数の文献をまとめながらそのとき起こった事件、対立をその場にいるかのように記し、ときにはその後にどういうことが起こるのかをわずかに記述する。いってしまえば擬似歴史小説といった具合でしょうか。歴史小説は読まないので断言はできませんが、少なくとも本作においては『(勿論創作としての歴史だけど)過去に起こった革命を物語風に著した歴史書、あるいは英雄とされたビスカラの生涯、その一部を神様が気まぐれに書き残したもの』であるという印象です。

 なぜ神様かというと、それはあらすじにもある『普通の人間では耐えられないような血塗られた道』ということに関係があるわけですが……今までここで感想を書いてきたものや、それ以前から読んできたものにはこういう類のものはなかったので、新鮮に思いながらも少しばかり懐かしい思いに駆られました。

 というのも、今を去ること十年以上前、本作と似たような感じで掌編を書いたことがあるからでして。そのとき同じように物書きまがいのことをしていた友人に見せたのですがそれはもうこき下ろされました。まあそれは関係のない話ですので割愛するとして。

英雄が、歩いた道は、血に塗れ

 まあ序章部分を読み終わった時点で分かってしまう部分ではありますので多少のネタバレをしてしまいますと、本作は上記のような性質を持ちつつタイムリープものにも分類されます。『普通の人間では耐えられないような血塗られた道』とはそういうことで、つまるところビスカラは限定的に時間遡行を行うことで起きてしまった現実を書き換えることができます。ただし条件付で。

 この条件が彼を常に苦しめ、それでも彼はのちの世に英雄とされるほどの人間になる。果たして彼はどれほどの血と涙を流し、どれほどの痛みを得たのか。なるほど戦時における英雄とはどれだけ『血塗られた道』を歩んできたのかで決まるのかとさえ思えてきます。現実においてもかの『ドラキュラ』のモデルとして知られるヴラド3世は自国を守るためにかなりえげつないこともやっていますし。

 正直なところ、彼に感情移入できるかといわれると私はできませんでした。そして、おそらくはこの本を手に取るほとんどの人がそうではないでしょうか。もしその点を考慮して上記のような歴史書風に仕上げたのなら流石としかいいようがなく、しかしそれゆえに登場人物への感情移入を求める読者には受け入れられないのではなかろうかと思います。とはいえ食わず嫌いはよろしくない。一度手に取って、読んでみることをお勧めいたします。

2016年9月14日:筒狸

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