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『尾木花詩希は褪せたセカイで心霊を視る』感想

 ダッシュエックス文庫、紺野アスタさんの『尾木花詩希は褪せたセカイで心霊を視る』の感想です。ネタバレはありませんのでご購入の参考にどうぞ。

心霊とはいえども

 私は心霊写真については懐疑的です。勿論、所謂本物というやつもどこかに存在するかもしれませんが、少なくともテレビなどで取りざたされるようなものについては無条件に信じるということはできません。いくらでも加工のしようがあるものを見せられてどうしてそれを信用できようか。まあ、もし自分が何かしら撮影して、そこに何かが写りこんでいたとしたら信じるかもしれませんが、それでもきっと、最初は目の錯覚を疑うことでしょう。

 本作のヒロインたる尾木花詩希は、世間一般に言う心霊写真を撮影して回る変な少女ということで、学内で有名。そんな彼女に、主人公・久佐薙卓馬は、廃墟と化したデパート、その屋上にある遊園地に出没するという『観覧車の花子さん』を撮影してほしいと頼むのですが……

 心霊とタイトルにあるものの、ホラー的要素はありません。詩希が撮っているものは彼女いわく『想いの欠片(ゴースト)』であり、それを撮るのはかつて持っていて今はなくしてしまったものを取り戻すため。想いの欠片を撮影するためなら心霊スポットにも平然と足を踏み入れる詩希ですが、彼女自身は「幽霊なんていない」と卓馬の頼みを一度は断ります。まあ結局、利害の一致(とは少し違いますが)を得て引き受けることになるのですが。

 詩希には世界がモノトーンに見え(色覚異常とかそういう現実的なことではなく)、それがなんであるか認識することはできてもそこから何らかの感想を得ることができない。加えて、感情らしい感情も欠如してしまっています。もっとも、作中で卓馬も言っていますが、怒りの感情は比較的色濃く残っている様子。

 ただまあ、ほぼ常に行動を共にすることになる卓馬の視点から書かれているからか、感情の欠如、というよりは感情の表現力が乏しい程度にとどまっている印象ではありましたが。上記の怒りの部分もそうですが、(多少ずれているところがあるものの)羞恥心を見せる場面もありますし、好奇心という意味では、想いの欠片関連は人一倍といった具合。それでも卓馬との交流や写真を通じて徐々に詩希が変わっていく姿は非常にかわいらしい。

 一方の卓馬。彼の目的は観覧車からの転落事故で意識不明となっている姉の目を覚まさせること。噂される観覧車の花子さんとは姉のことであり、花子さんがそこに縛られているから姉は目覚めることができない。だから、“心霊写真”を撮る詩希に「姉の思い残しが何なのか知りたい」と依頼します。

卓馬に生じたひとつの疑問

 中盤、自分にも何か手伝えることはないだろうかと姉の部屋を調べる卓馬。序盤は基本的に二人の交流や詩希の思い、彼女が撮る写真などの話が多く、ややスロースタート気味の物語ですが、そのあたりから徐々に動き始めます。そうしている内に、卓馬の中に浮かび上がるひとつの疑問。

 姉の事故は本当に事故だったのか?

 結末はぜひその目で。

2016年11月3日:筒狸

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