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『追伸 ソラゴトに微笑んだ君へ3』感想

 富士見ファンタジア文庫、田辺屋敷さんの『追伸 ソラゴトに微笑んだ君へ3』の感想です。後半軽度のネタバレが含まれますのでご注意ください。また、二巻のネタバレも含まれます。

新たな、そして最後の問題

 二巻にて古い携帯電話に端を発した幼馴染の問題を解決し、また初めての再会を果たしたハルカとの新しい関係を築き始めたマサキ。が、最後の最後でまたしても世界が改変され、マサキが知る風間ハルカは、マサキの知らないハルカへと変わってしまいました。

 その改変からしばらくして。また別の超常現象にたどり着くマサキ。過去を改変する葉書とポスト、強い想いをメールとして受信する携帯電話……そして今回新たに登場した、後悔をやり直せる形代。それらがそれぞれに結び続けたマサキとハルカの結末は――

 というわけでございまして、三巻を持って『追伸 ソラゴトに微笑んだ君へ』は完結と相成ります。細かいことは後述するとして、まあ終わりよければすべてよし。読むのなら一巻から三巻まで一気に読んでしまうことをおすすめします。

あれだけ振り回されたのに

 さて、読んでしまえば非常によい読後感ではあったものの、実は三巻中盤辺りまで微妙な手触りでした。

 というのも、序盤のマサキの行動が、なんというかあまりにも自分本位に過ぎるというかなんというか……今の世界のハルカと仲良くなりたいがために現象を連発させる姿は、正直その安易さに苛立ちもしました。

 ここに至るまでに散々振り回され続けてきた超常現象に完全に寄りかかっていて、あまつさえ『失敗してもやり直せるからいい』みたいな考え方がとにかく受け入れがたかった。

 ただまあ、逆に考えて、過去に遡れる力を手に入れたら人間こんなものかなあとも思いますが。それに、それが最後まで続いたわけではありませんから大きな問題というわけではありません。

最終巻にしてついに登場

 作中、マサキの幼馴染であるユミが所属している伝承研究会。それまで会員が三人だけであることだけは明かされていましたが、ユミ以外の研究会メンバーが登場することはありませんでした。

 それがここに来てついにその内の一人が登場。伝承研究会会長・歳森チエ。マサキと同級生である彼女は、どうにも何か知っている様子に見えますが――

 果たして、マサキ達のたどり着く未来は。

会いたいのは、本当に好きなのは

 さてここからはネタバレが入りますのでご注意ください。

 今の世界のハルカと親密になるべく『縁切り』による時間遡行を繰り返すマサキですが、その実やはり本当に好きなのは以前の世界のハルカ。そのことは話を読んでいれば自ずと伝わってきます。

 ただ、この『以前の世界のハルカ』というのも厄介な表現で、それは最初に邂逅を果たしたハルカのことなのか、それともその後初めての再会を果たしたハルカのことなのか。

 そのことはひとまず置いておいて、結末に至るまでの気になった点などを少々。

全巻を通しで読んで欲しい所以

 三巻にて明かされる謎は、三巻で登場したものだけではありません。というか、三巻で登場した謎を解明するためには一巻と二巻で触れられた事象が関わってきます。

 例えば過去に届く葉書。これは一巻においてマサキが八枚ハルカに送ったわけですが、この世界のハルカはその葉書を”九枚”受け取っています。

 その九枚目を送っていたのは二巻の世界におけるハルカだったわけですが、このことにマサキがたどり着くためには二巻での会話や出来事が肝になってきます。

 とはいえその出来事はふとした何気ない中に点在する形なので、よほど注意深く読んでいてかつ間を開けていなければ『そんなのありかよ!』となりかねません。

 ですので、未読の方で興味を持たれましたら一巻からの通読をおすすめしました。

デウス・エクス・マキナ?

 さて本巻で登場した歳森チエですが、彼女の祖父は元々マサキ達の町の神社を管理する人間でした。神社が合祀され今に至るのは一巻でもすでに語られたとおりですが、その合祀の後に町では不可思議な現象が起きていたとのこと。そのことと合祀のことが何か関係があるのではと考えた彼女の祖父が立ち上げたのが、伝承研究会でした。

 つまり彼女は町の伝承については明るいもののその実何も知らないに等しい人物。ただ、彼女が読んでいたSF小説が時間遡行に関するものだったり、何気ない一言でマサキに真相への足がかりを与えたりと、その働きはぽっと出とは思えないレベル。

 デウス・エクス・マキナというほどのものではありませんが、これならいっそ二巻で登場させて立ち位置をはっきりさせていただきたかったというのは私のわがままです。

結局よかったのか

 二巻と三巻の中盤までのいわば中だるみ期間を乗り切れば、少し不思議なボーイミーツガールの名に偽りのない話だったと思います。最初のハルカはもう故人だし、マサキが正しく後悔をやり直すために縁切りを使ったのだからこの結末は当然の結果ではありましたが、それでも落ち着くところに落ち着いてくれて安心しました。

 特に後半の、改変される直前の世界に戻ってからのマサキの目が、しっかりとその世界のハルカに向けられていた点は好印象。ここでまた『前のハルカは』などと言い出そうものなら『ちょっとハルカさん、もう一回世界いじって』と突っ込むところ。

 一巻、二巻とあまりよい印象の感想は残していませんでしたが、終わりが綺麗にまとまっていたので全てよし。贅沢を言うのなら、その三巻後半のストンと落ちる感じを、長期的に出していただきたかったといったところでしょうか。

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