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『僕と君だけに聖夜は来ない』感想

 角川スニーカー文庫、藤宮カズキさんの『僕と君だけに聖夜は来ない』の感想です。後半、軽度のネタバレが含まれますのでご注意ください。

本作の色合いは

 前作『いつかの空、君との魔法』を色彩の物語と評しましたが、はてさて今作『僕と君だけに聖夜は来ない』はどうだったのかというと……

 いきなり総評を言うならば、題材自体は結構ありきたりな、ループ要素ありのボーイミーツガールもの。当館で取り上げているものの中にも『追伸 ソラゴトに微笑んだ君へ』や、実写版のレビューですが『二度めの夏、二度と会えない君』などがあります。

 印象としては前作とは随分違ったかたちのものを仕上げてきたなと。前作二巻の感想で述べた悪役の不在感というか、綺麗なものばかりではないという点が描かれたことでむしろ世界観は華やいだ気がします。

ダイジェスト?

 十二月二十四日の夜、想いを寄せ合う黒江理一と白波瀬なつみは結ばれ、しかしなつみの「好き」という言葉をトリガーになつみは死に、日付は二十二日に巻き戻る――その世界を理一は幾度となく繰り返します。

 当初はデジャヴ程度にしか考えていなかった理一も、二度三度と繰り返すうちに非現実的な状況に置かれていることに気づき、やがてなつみの「好き」がきっかけになっていることにもたどり着くわけですが……最初、その展開の性急さが少し気になりました。

 少し中身に触れますと、起承転結の転に当たる部分にたどり着くまでに理一が経験したループは十回。もっともそのうちの半数以上はシーンがクリスマスイブからのスタートでしたし、前半のループでなつみとの馴れ初めなどは描写されていたのでそれ自体がどうこうというわけではありません。

 むしろ、どれだけ手をつくしてもなつみに告白を許してしまう=なつみを死なせてまた新しいループに入ることで憔悴していく理一の様子を描くのに一役買っているでしょう。

 問題は、地の文における表現が平易というか、ぱっと印象に残りづらいという点。

視点における弱点

 これは、個人的に勝手に一人称小説の弱点の一つだと思っているのですが、一人称で物語を展開することで、どうしても地の文においてもその視点=主人公に引きずられてしまう。結果として表現の幅が狭まってしまうことも少なからずあると思います。

 とはいえ、言ってしまえばこのあたりは技術力の問題なのかな、と。『物語シリーズ』の阿良々木暦の例を出すまでもなく一人称であっても印象に残る地の文が記されているものは少なくありませんし、『いつかの空、君との魔法』のときのような印象に残る表現があればよかったのですが。

 あるいは、その淡白さすらも理一の心情を反映したものだとするならば問題ないわけですが。

ループの果てに待つものは

 十回のループを終え、憔悴し心が擦り切れてしまった理一。そんな彼の前に一人の少女が現れます。果たしてその少女・リンカは何者なのか。物語はここから一気に毛色を変えます。続きは次のページ、あるいはご自身の目でお確かめください。

ループの先から現れた少女

 これより先、ネタバレに入りますのでご注意ください。

 未来からやってきたと言うリンカは、理一がループに閉じ込められた原因、未来において人類の敵として認識されているDivaについて語ります。少々唐突な展開だなと思われるでしょうが、まあ私もそう思わないでもありませんでした。

 ひとまずそれは置いておくとして、物語が展開される時間軸において、そのDivaを唯一知覚できるのがなつみ。彼女は、平時から空の色が他の人とは違い薄桃色、ときには紫に見える共感覚の持ち主で、その空の色こそがDivaが存在する証です。

未来においてなつみはDivaを認識し対抗する技術を生み出し、ある種英雄的な扱いを受けています。そのなつみを疎ましく思ったDivaがなつみを殺そうと動き出し、それを察知した未来の人類がそれを”望むかたち”で回避するために理一をループに閉じ込めた、とのこと。

 ……はい、まあ少々どころかかなり唐突な展開ではあります。とはいえ空の色が違って見える点、そしてそのことが原因でいじめられた経験があることについては最初の頃に説明がされていますし、そのことが理一となつみが親しくなったきっかけではあるのですが。理一が未来におけるもう一人の重要人物であることも、その後説明はされています。

 しかしながら、ここに来てまた展開の早さがいくらか目についてしまうあたり、問題はやはり先述の通り表現の幅や間の取り方でしょうか。どうにももう一歩という感じがして惜しいと感じてしまう。その分読みやすさはあるわけですが果たしてそれがいいやら悪いやらといった具合。

人によっては鬱展開

 リンカによって『未来にて実証されている』方法でもってループを脱出した理一ですが、その手法は少々荒っぽいもので、関係者全員、というか理一となつみが等しく傷を負うというものでした。結果として二人にとってクリスマスイブは最悪の思い出として刻まれ、しかしそれゆえに離れることも近づくことも出来ないという状況に。

 やはりこの落ちは好みが別れることでしょう。これについては明言は避けさせていただきます。ただ個人的な好悪で言わせていただければ、好きな展開です。人によっては定番パターンというかもしれませんが、そんなこと言い始めたらきりがありません。

結果として

 前作とは違うベクトルではありますが今回も楽しませていただきました。あれこれ言いはしたものの、結局のところ一言面白かったと付け加えられるので個人的には当たりでした。このまま、是非とも腕を磨いていっていただきたいと思う所存。

 それでは。

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