無銘図書館

『1パーセントの教室』感想

 電撃文庫、松村涼哉さんの『1パーセントの教室』の感想です。後半、軽度のネタバレが含まれますのでご注意ください。

これまでとは打って変わって

 さて、松村さんといえば『ただ、それだけでよかったんです』で鮮烈な登場をしたかと思えば、当館でもご紹介しました『おはよう、愚か者。おやすみ、ボクの世界』で(個人的に)ハッピーエンドとはなんぞやと考えさせられた方ですが、今作はどうだったかというと……やっぱり、松村さんは松村さんでした。

 ただ、今作はこれまでの二作品とは違って多少ギャグ寄りにはなっています。ええ、多少。それも中盤あたりまで、ですが。

オカルト色がほんのり強い

 今作のキーワードの一つといえるのが『祭り』。冒頭で主人公であり語り部の雨ヶ崎誠也は、クラスメイトに誘われて行った地元近くで行われる稲祭りに参加することになるわけですが、そこで不可解な幻聴や幻覚に襲われます。

 そこを助けたのが、死神と恐れられ、近づくもの皆不幸にしていく日比野明日香。彼女に『一目惚れ』されたことで、誠也もまたその災難に襲われることになるのですが……

 あらすじ等でも書かれていますが、実際には日比野が好きになる人物が破滅する運命にあるだけで、彼女が何かしらしているわけではありません。そして、そういう体質になってしまった理由もとある『祭り』にある模様。

 かくして、その呪いによって破滅を予言された誠也の非日常が始まります。

蓋を開けてみれば

 まあ先述の通り、ギャグ路線を多少交えつつも人間の内面の怖さがそこかしこに差し込まれ、特に終盤は(序盤のギャグ要素で多少緩くなってはいても)人間の恐ろしさが描き出されています。

 テイストが変わりながらも相変わらずの読み応え、是非。

秘密を暴く側と護る側、どっちがいい?

 それではここからはネタバレ解禁でございます。未読の方、またこれから読もうと考えている方はその点お気をつけください。

 人間、誰しも秘密の一つや二つ抱えているもの。ですが今作の場合、その『秘密を抱える』ということも、テーマの一つになっているようです。

 誠也は作中で大きく三つの事件に巻き込まれますが、そのいずれもが、他人の秘密を暴かなければ完全には解決できないものばかり。そして――

日常にある不気味さ

 今作最後に誠也が巻き込まれた、クラスメイトの花園玲奈の失踪事件。涙を流していた彼女と最後に言葉を交わしていたのが誠也だったことで、クラスメイトから糾弾されることになるわけですが……

 この前後から、人間関係の綻びが少しずつ明らかになっていきます。と、いうよりも、秘密を抱えるというある意味当然のことが、不気味さを伴って描かれています。このあたりはどことなく『人間失格』を思い起こさせました。

 相談の達人などともてはやしておきながら、実際の捜索や調査には手を貸そうとしないクラスメイト。事件解決後には花園の幼馴染であり、誠也と日比野以外に唯一花園の捜索に手をつくしていたクラスの人気者・川越はそのことを『不気味』とまで評しています。

 ですが実際は、先述の通り秘密なんてそうおいそれと他者に打ち明けられるはずもなく。そのことを『不気味』というのは川越の言葉通り『過敏なだけ』なのでしょう。とはいえ、不気味さを感じたのは間違いないわけですが。

 物語を描くという観点からすれば、そのある種普通のことを、誠也の目線を通じて薄気味悪さを感じさせるよう描いてみせた松村さんの技が発揮された結果でしょう。

続編はあるのか?

 誠也は『人の心に踏み込もうとするとひどい頭痛に襲われる』体質で、そのためはっきりと友人と呼べる人間はいません。しかしかといってクラスから孤立しているというわけではないのですが。

 この原因となった出来事は結局作品内では詳らかにされてはいませんが、おそらく冒頭の日比野との会話から、ここにも何らかの形で『祭り』が関わっているのではなかろうかと。

 また、先述の通り日比野も本人曰く『祭り』が原因となって呪われた体質となったと語っていますが、その詳細も明らかにはなっていません。果たして今後、これらが解明されることはあるのか否か。

 こちら一冊でも充分に楽しめる作品ですし、その先は読み手の想像に丸投げされても嫌はまったくないんですが、でもやっぱり松村涼哉ワールドをもう少し覗いていたいかなーなんて。

旧館記事

エントランスに戻る

Return to Entrance